ドアの掛けがねをはず


 ベルガラスがにやにやSCOTT 咖啡機評測  しながら桟橋側に姿をあらわし、ダーニクとエランドをすぐうしろにしたがえて手すりによりかかった。
「おじいさん?」ガリオンはあぜんとした顔になった。「そこでなにしてるんです? それにダーニク――エランドも?」
「じつはおまえのおばさんの思いつきだったのさ」ベルガラスは言った。
「ポルおばさんもいるんですか?」
「もちろんいるわ」ポルガラが船首の下の天井の低い船室からあらわれて、落ち着き払って言った。
「ポルおばさん!」ガリオンはあっけにとられて叫んだ。
「ぎょっとすることないでしょう、ガリオン」ポルガラは青いマントのえりをなおしながら言った。「失礼よ」
「でも、どうしてくるのを知らせてくれなかったんです? みんなでなにをしようって言うんですか?」
「たずねてきたのよ。人間はときどきそういうことをするものだわ」
 一同が若い王のいる桟橋におりたつと、再会SCOTT 咖啡機開箱につきものの抱擁と握手とおたがいにじっと見つめあう光景がくりかえされた。しかしエランドはそれよりほかのことに関心があった。港を見おろす城塞をめざして、一同が灰色の都市をのぼりはじめると、エランドは一度だけガリオンの袖をひっぱって言った。「馬は?」
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 ガリオンはエランドを見つめた。「厩にいるよ、エランド。きみに会ったら喜ぶだろう」
 エランドはにっこりしてうなずいた。
「まだあんなしゃべりかたなの?」ガリオンはダーニクにきいた。「あんなふうに一度にひとつの言葉しか言わないのかな? ぼくはてっきり――その――」
「たいていのときは普通にしゃべるよ――年齢相応にね」ダーニクは答えた。「だが、〈谷〉を出発してからはあの子馬のことしか頭になかったんだ、それに興奮するともとのしゃべりかたにもどってしまうんだよ」
「でもかれはよく言うことをきくわ」ポルガラがつけくわえた。「もうひとりの子があの年齢のときはあん優思明なではなかったわね」
 ガリオンは笑った。「ぼくってそんなに扱いにくかったのかな、ポルおばさん?」
「扱いにくかったんじゃないわ。たんに言うことをきかなかったのよ」
 城塞に到着すると、正門の高くぶあついアーチ型の壁の下で、リヴァの女王がかれらを出迎えた。セ?ネドラはエランドの記憶にあるとおり、とても美しかった。茜《あかね》色の髪は金色のふたつの櫛でうしろにたばねられ、深紅の滝のように背中に流れていた。緑色の目は大きかった。小柄で、背の高さはエランドといくらもちがわなかったが、セ?ネドラは指の先まで女王だった。彼女は女王らしくかれら全員を迎え、ベルガラスとダーニクを抱擁し、ポルガラの頬にかるくくちづけた。
 それからエランドに両手をさしのべた。エランドはその手をとって、セ?ネドラの目をのぞきこんだ。そこには垣根があった。苦悩を遠ざけようとするかすかな防御の色が見えた。セ?ネドラはエランドを抱きよせて、かれにくちづけた。そのしぐさにさえ、彼女自身おそらく気づいてもいない不幸な緊張が感じられた。セ?ネドラのやわらかいくちびるが頬からはなれたとき、エランドはもう一度じっと彼女の目をのぞきこんで、彼女にたいして感じているありったけの愛情と希望と慰めを視線にそそぎこんだ。そして、思わず片手をのばしてセ?ネドラの頬にそっとふれた。セ?ネドラの目が大きくなり、くちびるがふるえだした。そのかすかな接触によって、めのうのように硬い防御がくずれはじめた。大粒の涙がセ?ネドラの目にもりあがった。と思うと、悲痛な泣き声とともにくるりとエランドに背をむけ、両腕を広げて、よろめきながら叫んだ。「ああ、レディ?ポルガラ!」
 ポルガラは泣きじゃくる小さな女王を冷静に抱きしめた。そしてエランドの顔をまっすぐのぞきこむと、片方の眉を物問いたげにつりあげた。エランドはポルガラを見て、そっとうなずいた。
「はてさて」ベルガラスはセ?ネドラが突然泣きだしたことにやや当惑しながら、顎ひげをかき、城塞の内側にある中庭と、堂々たるみかげ石の階段の上にある巨大な扉をながめた。「なにか飲み物はあるかね?」とガリオンにたずねた。
 泣きじゃくるセ?ネドラにまだ両腕をまわしていたポルガラが、ベルガラスにあからさまな視線をむけた。「ちょっと早すぎるんじゃないの、おとうさん?」
「いや、そうでもなかろう」老人はそっけなく答えた。「船旅のあとに飲む酒は、胃の調子をととのえるのに役立つんだ」
「いつでもなんだかんだと言いのがれをするのね」
「いつもなんかしらうまいことを思いつくのさ」
 エランドはりっぱな厩のうしろにある練習場で午後をすごした。くり毛の子馬はじっさいにはもう子馬というより、成長しきった若い種馬と言ったほうが正確だった。褐色の体はつややかで、大きな円をえがいて練習場をかけまわると筋肉がさざ波のように波うった。肩の上のそこだけ白いぶちが、明るい日差しをあびて輝いて見えた。
 馬はどういうわけかエランドがくるのを知っていて、午前中は興奮のしどおしだった。馬丁はエランドに注意した。「気をつけたほうがいいよ。どうしたわけだか、きょうはちょっと気がたっているんだ」
「もう大丈夫ですよ」エランドは落ち着きはらって、して若い馬のいる馬房へはいろうとした。
「やめとき――」馬丁はおどろいて少年をひきもどそうとするように腕をのばしかけたが、エランドは目を血走らせた馬のいる馬房にすでにはいったあとだった。鼻を鳴らし、神経質に後足ではねて、わらにおおわれた床をひづめで蹴とばしていた馬は、動きを止めてふるえながら立った。エランドは片手をのばし、うなだれた首をなでてやった。次の瞬間からふたりのあいだはもとどおりになった。エランドは馬房のドアを大きく押しあけると、満足そうに彼の肩に鼻づらをおしつけている馬をひいて、あっけにとられている馬丁をしりめに厩を出た。
 しばらくのあいだかれらは一緒にいるだけで、ふたりのあいだの絆をわかちあうだけで、満足だった――それはかれらが出会う以前から、いや、かれらのどちらもまだ生まれないうちから存在していたふしぎな絆だった。あとになったら、もっといろいろな楽しみかたがあるだろうが、さしあたっては、一緒にいるだけでふたりとも十分だった。
 紫色の夕暮れが東の空にしのびよるころ、エランドは馬に干し草をやって、あしたまたくると約束し、友人たちをさがしに城塞へ戻った。一同は天井の低い食堂にすわっていた。食堂はひろびろとした宴会場にくらべると小さくて、居心地がよかった。たぶんこのものさびしい城塞のどの部屋よりも家庭に近い雰囲気をただよわせていた。
「楽しい午後だった?」ポルガラがたずねた。
 エランドはうなずいた。

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